月夜の翡翠と貴方【番外集】
「母親と森の近くに、薬草を摘みに出かけたんだ。…夕方から雨が降って、雷も鳴って…近くの小屋で、晩を過ごそうと思って」
ルトとその母親は、小屋へ入った。
その夜は静かで、雨と雷の音だけが響いていた。
だからルトが寝静まった後、突然小屋の扉が開けられた時、すぐに目を覚ますことができた。
「…俺を寝かしつけても、母親は寝てなかった。突然扉が開いて、銃を持った男が二人入ってきて。…母親と俺を見て、笑うんだ。にや、って」
ルトは、目を強くつぶった。
苦しい記憶に、耐えるように。
私は目を伏せて、唇を噛んだ。
…初めて、見る、辛いことから目を逸らす、彼。
だって彼は、いつもまっすぐだったから。
目を逸らさずに、しっかりと現実を見据えていたから。
…私まで、苦しくなるよ。
「母親が驚いた顔したあと、すぐに俺を抱きしめて。男に『出て行って』って叫ぶんだ。俺にはわけわかんなかったけど…今、危ない状況だっていうのだけは、わかった」
深夜、激しい雷雨のなか、小屋へ突然入ってきた男たち。
恐ろしかったに、違いない。