月夜の翡翠と貴方【番外集】
「けど、男はそれにさえも笑って…銃、持って。…母親に、向け、て」
目の前で、撃たれたんだ、と。
自分を抱きしめる母の背中に、躊躇なく。
強すぎるくらい私の手を握って、ルトはそう言った。
「母親が倒れて、服に血がついて。一瞬、何が起こったのかわかんなかった。泣く暇もなく今度は、俺に銃口が向けられて」
痛いほどに握られた手は、微かに震えている。
私はその手のひらを包むように、抱きしめるように、握り返した。
「死にたくないって、思った。同時に男に対して、気が狂うくらい怒りが湧いて。それで、思わず男の銃を掴んで、取り上げて」
ルトが、静かに目を開く。
ゆっくりと開かれるまぶたと、揺れるまつげ。
そうして見えたのは、どこか焦点の合わない、真っ暗な深緑だった。
「…気づいたら、皆殺してた」
その瞳を呆然と開いて、ぽつりと呟くように言う。
ただただ目を見開いて、私は何も言えなかった。
…たった十一歳の、子供が。
銃を奪い、男を二人も殺した。