月夜の翡翠と貴方【番外集】
「自分がなにをして銃を持ってるのか、一気に怖くなって…銃投げ捨てて、小屋から出た。走って、走って…もう、頼れるのはミラゼしかいなくて」
ルトによれば、ミラゼは出会った時からその身を裏の世界へと投じていたという。
人を殺すという行為をして、なおかつそれを冷静に受け止めてくれる人物。
当時のルトにとって、それはミラゼしかいなかったのだろう。
「ミューザに戻って、ミラゼの家の扉を必死に叩いて…全部、話した。ミラゼと小屋に行って、死体の処理をしてもらった」
淡々と当時のことを語っていく、ルト。
その瞳は、真っ暗だ。
「それからは…ミラゼと、一緒だった。孤児院に行くのが、どうしても嫌で、縛られたくなかった」
ミラゼは、『私と一緒に来るか』と訊いたらしい。
ルトはそれに、頷いて。
「…俺は、『依頼屋』になった」
…仕方のない、ことなのだ。
幼いルトが人を殺めてしまったのは、正当防衛であり、それを責められるひとはいない。
けれど、幼い彼には、全てが恐ろしかった。
人を殺したその手が、母を失った現実が、彼を取り巻く、全てが。