月夜の翡翠と貴方【番外集】
「あとからミラゼが調べてくれて、母親の事情を知った。母親は俺の父親の愛人だった。父親には他に、正妻がいて。つまり俺は、愛人の子だったわけだ」
ルトが、乾いた笑いを零す。
母親は正妻の恨みを買い、お腹に子を抱え、ミューザに逃げてきた。
そして、ルトを産んだ。
しかし、正妻の恨みが消えることはなく。
正妻に雇われた男たちが小屋を襲い、ルトと母親を殺そうとしたのだ。
「…なんで、お前が泣いてんの」
いつの間にか涙で溢れていた瞳を見て、ルトが小さく笑う。
その手を静かに、こちらへ伸ばした。
けれど、私の身体は自然とそれに震えてしまって。
びくりと肩を揺らしてルトを見つめる私に、彼は驚いた顔をした。
…あ。
「…やっぱ、怖い?」
伸ばした手をすっと戻して、彼は寂しげに笑った。
「…ち、違う、これは…」
驚いてしまった、だけで。
涙で、声が震える。
視界がぼやけて、ルトの顔がよく見えない。
…彼は前に、『帰る家がない』と言っていた。
その顔は寂しそうで、悲しそうで。