月夜の翡翠と貴方【番外集】
きっかけは、きっとあの時。
エルフォードを貶めようとする輩がこの店を襲い、そして無事ユティマが救出された、あの時だ。
契約を切ると言い出したユティマに、ムクギが物腰柔らかになだめたのである。
それからというもの、彼女から『ムクギを連れて来い』という手紙が頻繁に届くようになった。
最初は無視していたのだが、六通目になる今回、ついに脅しにかかってきたので、無視できなくなったのである。
「おい、ムクギ」
そろそろひとりで狭い店内を歩き回るのも疲れてきたので、苛立った表情でムクギを呼んだ。
「いつまで話している。さっさと買い付けを済ませて帰るぞ」
ムクギが「わかりました」と静かに返事をすると、その隣でユティマがあからさまな顔でこちらを睨んできた。
なんだ、文句があるのか。
このエルフォード家次男を、十五分も放置して話し込んだのだ。
充分すぎるほどに話しただろう。
買い付けも終わり、ようやく店を出られるというとき、ムクギがユティマを呼んだ。