月夜の翡翠と貴方【番外集】
「ユティマ様、次の夜会で使うものを、特別に織っていただきたいのですが…」
ムクギからの頼みに、ユティマはそれはそれは明るく「もちろんいいわよ!」と即答した。
「ありがとうございます。詳しいことは、この紙に…」
そう言ってムクギは内ポケットから紙を出そうとした。
しかし紙がなかったのか、「すみません、馬車に置いてきたみたいで」と言って、馬車へ取りに店を出て行った。
「ムクギさん、忘れ物なんて珍しいわね。でも、そんなところも素敵だわ」
うっとりとした表情で、ユティマは彼の去っていたほうを見つめる。
…主人の私が言うのも何だが、あの無表情の男の何がいいのかさっぱりわからない。
それを伝えると、彼女はむっとした顔で「そこがいいんじゃない」と言った。
「あの無表情の裏に、きっと色んな感情を秘めていらっしゃるんだわ」
…果たして、そうなのだろうか。
ムクギが私の専属の執事になってもう三年になるが、未だにあの男は理解し得ないところがある。
何を考えているのか、表情で読み取れないのだ。