月夜の翡翠と貴方【番外集】
「何気にきちんと、私の話を聞いて下さるのよ。とっても素敵。願わくば、あの方とお付き合いを…」
「…それは、駄目だ」
微笑んで妄想を繰り広げるユティマに、ぴしゃりと言い放つ。
「ムクギはエルフォードの執事だ。絹織物屋なんかには、渡さん」
ユティマはこちらを睨むと、「そんなのわかってるわよ」と言った。
「うちの店を継いで欲しいだなんて、思ってないわ。頼んだところで、彼には無駄なことよ」
ふん、と唇を尖らせる。
彼女にしては潔い言葉に、思わず「何故そう思う?」と訊いてしまった。
彼女は「悔しいけどね」と言って、こちらを睨んできた。
「彼との文通の内容、ほとんどあなたのことなのよ。『この前リロザ様が』って、そんなのばっかり。全く、嫌になるわ」
いつの間に、文通なんてしていたのか。
そんな疑問の前に、あのムクギがそんなことを書いていたのかと、恥ずかしくなった。
「ムクギさんがエルフォードを離れることなんて、きっとあり得ないわ。とりあえず、あなたが死にでもしない限りは」
「…恐ろしいことを言わないでくれ…」
この女、ムクギを手に入れるためだとか言って、私を殺しかねないのではないか。