月夜の翡翠と貴方【番外集】
*紳士な彼と茜色の彼女
「イビヤさんと喧嘩したぁ?」
ミューザの街の、こっそりと隠れ家のようにつくられた酒場。
そこで、幼馴染であるミラゼはグラスを磨きながら、「そーよ」と唇を尖らせた。
「ええ…あの人が暴言吐くとことか、想像出来ないんだけど」
ルトはいつも通りカウンターで、彼女の恋人で相棒でもあるイビヤと、昨日喧嘩したという話を聞いていた。
ジェイドもまたいつも通り、ルトとは離れた席で酒場の連中に囲まれて楽しく談笑している。
「…違うわよ。私が一方的に怒ったの」
…だろうな。
あのイビヤが怒るなんて、考えられない。
むしろ、怒りながらにこやかに笑うような男だろう、彼は。
先程俺がイビヤについて話を振ると、途端に彼女は不機嫌な顔になってしまった。
いつも明るいミラゼだから貴重と言えば貴重かもしれないが、扱いが面倒なことこの上ない。
まあ、一度機嫌を損ねると俺もそれなりなので、人のことはとやかく言えないんだけど。