月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…なんで喧嘩しちゃったの」
「次に受ける依頼のことで。理由自体はどうでもいいのよ。ただあの人、私が怒っても顔色ひとつ変えないの。それにカチンときてね」
…女って、面倒だなぁ。
言うことを聞かないと怒って、聞くばかりでも怒るのか。
その辺りを上手くやれるのが、いい男ってやつなんだろうけれど。
「大体ねえ、いつも何考えてるのかわかんないのよ。私がわがまま言っても快く従うし、私がすることはなんでも許しちゃうのよ」
ああ、ついに愚痴が始まってしまった。
こうなると、女はただ話を聞いて欲しいだけなのだと聞いたことがある。
適当に相槌を打ちながら、ひたすらミラゼの愚痴を聞いた。
…こういうのも、もう慣れたものだけれど。
彼女は新しい男ができてしばらくすると、決まって俺に愚痴を零す。
一緒に仕事をしていた一年間、彼女は何度も新しい男を捕まえては捨て、『どこかにいい男はいないかしら』と嘆いていた。
俺は、完全に彼女の恋愛対象から外れていたのだろう。
俺がひとりで仕事をするようになってからも、度々話を聞かされた。