月夜の翡翠と貴方【番外集】
だから俺がイビヤの存在を知ったのは、カナイリー家でジェイドの奪還に協力してもらったときだったのだが。
思っていたより早く、ふたりは出会っていたようだ。
「まあ、その辺は色々あったのよ。なんて紳士的でミステリアスなひとなのかしらって、あの頃は思っていたけど」
今はさっぱりわからないわ、と肩を竦めるミラゼ。
…イビヤのことは、俺もよくわからない。
あのにこやかな笑顔の裏に何を隠しているのか、全く想像出来ないのだ。
グラスに入った酒をひとくち飲んだところで、ミラゼが小さく吐息を漏らした。
「…イビヤは本当に私のこと、好きなのかしら」
思わず酒を吹き出しそうになって、ゲホゲホと咳き込む。
「…なーによ」
「…けほっ、いや、なんか、気持ち悪いなって…」
「失礼ねー!私だって女の子なんだから」
どこが女の子なんだよ…