月夜の翡翠と貴方【番外集】
私は確かな声で、「ミラゼさんが」と言った。
彼が、こちらに視線を移す。
しっかりと、見つめ返した。
「…言っていた、そうです。あなたの気持ちがわからない、と」
イビヤの瞳が、小さく見開かれる。
「…ミラゼが、ですか?」
「…ルトが、話を聞いたそうです。…えっと、喧嘩…してるんですよね?」
今、と付け加えると、イビヤはぽかんと呆気に取られたような顔をした。
思わずこちらが戸惑うと、彼はやがてくすくすと笑い始めた。
「…ああ、そうですね。あれは、確かに喧嘩なのかもしれません。だから今日、ミラゼは私のほうを見ようとしなかったんですね」
どうりで、と納得している。
いや、こちらはよくわからないのだが。
喧嘩しているのか?していないのか?
「えっと、…喧嘩、は…」
「多分、したんだと思います」
多分、喧嘩したってどういうことだ。
私が眉を寄せていると、イビヤは可笑しそうに目を細めながら、「きっかけは些細なことだったんですが」と言った。