月夜の翡翠と貴方【番外集】
彼はその微笑みを絶やすことなく、まっすぐにカウンターへ向かって、グラスを磨いていたミラゼを見つめた。
酒場の人々が騒ぐのをやめ、ふたりの様子を伺う。
ミラゼは目を見開いて、イビヤを見つめていた。
あたふたとグラスを置く姿は、彼女らしくなくて確かに可愛らしかったけれど。
イビヤはその間も微笑みを崩すことなく、ミラゼを見つめていて。
彼女が「なによ」と唇を尖らすと、彼はふっと笑って恭しく礼をした。
そして、驚くミラゼの手を取り、その甲へキスをして。
「愛しています、ミラゼ。どうか、機嫌を直して下さい」
…その姿はまさに、『紳士』で。
ミラゼが顔を真っ赤にするのと、周りが大きな声でふたりを騒ぎ立てるのは、ほぼ同時だった。
「ヒュー!いいねえ、いいねえ!よっ、色男!」
「ほらほらミラゼ、何か言えよー!」
酒場の男達は、一様に冷やかし。
女達は、羨ましそうにきゃいきゃいと騒ぎ合っている。
ミラゼは、しばらくどうしていいのかわからないといった様子で困っていた。