月夜の翡翠と貴方【番外集】
4 桃色の華

約束、音、純情乙女



例えば、まだ母様が生きていて。


この世界のどこかで、元気に暮らしていらっしゃるとしたら。


きっと私は、会いにはいけないのだと思う。


落ちぶれて、

意地汚くなって、

こんな娘の姿を、母様は見たいとは思わないでしょう。


...だから、私は隠れてしまいたい。


この月夜に、この闇の下で。


あの頃のわたしにはなかった、

今の私の、醜さごと。



空の上の母様に、


...どうか、見られてしまうことのないように。







ミューザを出てから、半月後。


私達は依頼所へ向かう途中で、ディアフィーネの村へ立ち寄った。


以前この村を訪れたときから、約六ヶ月が経った。

セルシアは、この村をきっといい方向へ向かわせると言っていたけれど。

...どうなった、だろうか。


半ば不安を抱きながら、私達は村の入り口へと立った。

そして、前にこの村を訪れたときのように、目を見開いたのだ。


「...人が....たくさん」


歩いて、いる。

しっかりとした、足取りで。

目の前の道には、普通の村と同じくらいには人の通りがあった。



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