月夜の翡翠と貴方【番外集】
「どこへ向かっているのですか?」
と訊くと、皆嬉しそうに笑って、言うのだ。
「お医者様のところです」と。
なんでも、約三週間ほど前に、この村へ医者がやってきたらしい。
私達がこの村を去ったあと、セルシアは早々に医者を探し始めた。
この村がまず第一にすべきことは、病人、怪我人の治療であると考えた彼女の判断は、懸命だろう。
しかし、こんな貧しい村へ、すんなりと呼んで来てくれるような医者は、すぐには見つからなかった。
そこで、セルシアの婚約者であるロディーの街、モンチェーンから探すことにしたという。
するとなんとか、モンチェーンでひっそりと医者をしていた老人を見つけ、頼ることにしたのだ。
その老医者は優しく穏やかな性格をしているそうで、患者への対応も良く、村人は大いに喜んでいるらしい。
しかし驚いたのが、治療費はなんと全て領主であるオリザーヌが支払っているということだ。
特に取り立てを多くしたわけではなく、オリザーヌから快く出してくれていると。
『オリザーヌの令嬢がとても親切な方で』、と村人達が口々に言うのを聞いて、嬉しくなる。