月夜の翡翠と貴方【番外集】
「……邸の、なかも」
セルシアは私とルトの言葉に、少しばかり照れたように笑った。
「これで、良いのです」
……今の、セルシアの姿は。
貴族の気品こそ充分にあるものの、その身を包んでいるのは明らかに平民の召しもの。
靴も、一切装飾のない簡素なもので。
……とても、貴族令嬢の格好とは、思えない。
動きやすそうといえば、そうではあるが。
邸の内装も、高級品は全て取り払われていた。
絵画も、壺も、それに生けられた大輪の花も。
寂しいほどに、派手なものが見当たらない。
私は下を見つめて、眉を寄せる。
…この絨毯も、上質なものでは、ない。
どういうことだ?
「……邸のなかにあった、お金になりそうなものは全て...売り払いました」
その言葉に、ぱっと顔を上げる。
セルシアは、笑っていた。