月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…ほとんどを、治療費にあてています。…私の持っていたドレスも、思い入れのある二着を残して、それ以外は全て」
質屋へ持って行きましたわ、と彼女はあっさりと言う。
その言葉を、私とルトは信じられない気持ちで聞いていた。
…売った、なんて。
まさか、貴族の権威の印である衣装を、売っただなんて。
「……本気、なんだな」
隣で真剣な目をしたルトが、そう言った。
その目は、まっすぐにセルシアへ向かっている。
…本気。
このディアフィーネという村を、復興させる。
…彼女の、本気。
「……はい。あなた方との、約束ですもの。…果たせましたでしょう?」
美しく、セルシアが目を細める。
ルトが、優しく笑う。
「……ああ」
…思い出した。
ルトはセルシアと、ある約束をしていた。
私が、セルシアに協力する条件として。
またルトがディアフィーネを訪れた際に、路上に生気の無くした目で座り込んでいるような、そんな人はいないようにすること。
セルシアはその約束を果たすために、私達がこの村を去った早々に行動したのだ。
医者を呼び、人々を立ち上がらせる。
その足で、しっかりと歩けるように。