月夜の翡翠と貴方【番外集】
彼は静かに、言った。
「…もう、隠すなよ」
目を見開いた私のもとへ、彼は少しずつ歩いてくる。
ゆっくりと、足音を小さく立てながら。
そして、俯く私の隣で、並ぶように立ち止まって。
そっと、包むように私の手を握った。
「……なに」
「ちゃんと繋いでないと、どっか行きそうだなあと思って」
…また、それ。
どこにも行かないって、言ってるのに。
私は小さく口を開きながら、彼を引っ張るように歩き始めた。
「…ちょっと、羨ましいなって、思った…だけ」
ルトは私を見つめながら、「セルシア様が?」と言う。
「…うん」
…セルシアは、決して裕福な貴族家の娘ではない。
このまま半年前のような政治を行っていたら、確実にオリザーヌは駄目になっていただろう。