月夜の翡翠と貴方【番外集】
…いくら領地を持っていても、所詮は下級貴族。
以前のセルシアは、マリアだったころの私の境遇と、ほとんど変わらない。
金に溺れ、無知に溺れ。
自分は何もせずに、気がついたときには手遅れで。
違いといえば、セルシアには婚約者がいたことだ。
ロディーがいたから、彼女は今こうして前を向いていられる。
…私にだって、そんな存在がいたはずなのに。
ずっと愛してくれていた、両親、兄。
…それでも私は、道を間違えた。
下を向いて、隠れてばかりいた。
…だから、羨ましい。
ディアフィーネは今、変わろうとしている。
逃げることをやめ、村としっかり向き合い、前を向いた彼女の手によって。
…私はいつまでも、前を向くことができないでいたから。
人前に堂々と立ち、人の上に立つ人間として、相応の振る舞いができるような。
…そんな令嬢には、なれなかったから。