月夜の翡翠と貴方【番外集】


…いくら領地を持っていても、所詮は下級貴族。

以前のセルシアは、マリアだったころの私の境遇と、ほとんど変わらない。

金に溺れ、無知に溺れ。

自分は何もせずに、気がついたときには手遅れで。

違いといえば、セルシアには婚約者がいたことだ。

ロディーがいたから、彼女は今こうして前を向いていられる。

…私にだって、そんな存在がいたはずなのに。

ずっと愛してくれていた、両親、兄。


…それでも私は、道を間違えた。


下を向いて、隠れてばかりいた。

…だから、羨ましい。

ディアフィーネは今、変わろうとしている。

逃げることをやめ、村としっかり向き合い、前を向いた彼女の手によって。

…私はいつまでも、前を向くことができないでいたから。

人前に堂々と立ち、人の上に立つ人間として、相応の振る舞いができるような。

…そんな令嬢には、なれなかったから。


< 271 / 455 >

この作品をシェア

pagetop