月夜の翡翠と貴方【番外集】
今のセルシアは、私がなりたかった令嬢の姿だった。
憧れていた、立派な娘の姿だった。
「……私も、あんな風になれてたら。今も家族は、生きてたのかな」
…なんて。
思っても、仕方ないのに。
私は黙っているルトを見上げて、「ごめんね」と笑った。
「ちょっと、思っただけ。気にしないで。心配してくれてありがとう」
それだけ言うと、私はまた先へ駆け出した。
「ねえ、お腹すいた。何か食べようよ」
振り返って、未だ立ちすくむ彼に明るく話しかける。
「………うん」
…ルトの瞳は、複雑そうに揺れていた。
*
「強盗!?」
次の日。
オリザーヌ邸に行くと、出迎えてくれたセルシアの目には、涙が浮かんでいた。
どうしたのかと慌てると、なんと昨夜、村の民家に強盗が入ったという。