月夜の翡翠と貴方【番外集】


今のセルシアは、私がなりたかった令嬢の姿だった。

憧れていた、立派な娘の姿だった。


「……私も、あんな風になれてたら。今も家族は、生きてたのかな」


…なんて。

思っても、仕方ないのに。

私は黙っているルトを見上げて、「ごめんね」と笑った。

「ちょっと、思っただけ。気にしないで。心配してくれてありがとう」

それだけ言うと、私はまた先へ駆け出した。


「ねえ、お腹すいた。何か食べようよ」


振り返って、未だ立ちすくむ彼に明るく話しかける。


「………うん」


…ルトの瞳は、複雑そうに揺れていた。





「強盗!?」


次の日。

オリザーヌ邸に行くと、出迎えてくれたセルシアの目には、涙が浮かんでいた。

どうしたのかと慌てると、なんと昨夜、村の民家に強盗が入ったという。


< 272 / 455 >

この作品をシェア

pagetop