月夜の翡翠と貴方【番外集】


幸い怪我人が出ただけで済んだらしいのだが、襲われたのは一軒だけではなく。

金品を全て奪われてしまった村人たちが、今朝鬼の形相で邸へ訴えてきたらしい。

…もともと少ない金を、根こそぎ奪われてしまったのだ。

飢えに直面する事態になってしまう。

ノワードは、それはそれは深い溜息をついた。

「恐らく…オリザーヌの金もなく、村人たちもようやく癒えてきたというこの無防備な村の状況を見て、襲ってきたのでしょう」

なるほど。

今までになら、金のあるオリザーヌが腕の立つ者を雇うなり、なんらかの方法で強盗を捕まえられただろうが。

今、オリザーヌにはそんな余裕すらないのだ。

ノワードが、「こんな忙しいときに限って…」と頭を悩ませる。

セルシアは、どうして良いのかわからないという様子だった。


「ああ、どうしましょう…今晩、また別の家を襲われてしまったら…!せっかく皆、元気を取り戻していたというのに!」


落ち着かないのか、せわしなく邸内をうろうろと歩き回る。

…強盗、か。

全く、こんな大事なときに、なんて迷惑な連中だろうか。

わざわざ貧しい村の金を奪うなど、非道極まりないというか…


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