月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…夜中、ってのが面倒だな。この村、外に灯りがない」
ルトが、眉を寄せてそう言った。
…この村の外に、火は灯らない。
暗い、暗い、夜だ。
セルシアはしばらくうろうろとしていたが、突然何かを覚悟したかのように上を向いた。
「…やはりお父様に頼んで、見張りの者を雇うしか…!!」
そう言うと、素早い動きでセルシアは邸の奥へと消えていく。
その行動力は、立派だと思うが…
「……無理、でしょうな。旦那様は…許して下さらない」
私達の考えていることがわかるのか、ノワードはセルシアの去って行った方を見つめて、目を細めていた。
「…やはり、領主は復興に乗り気ではない?」
私がそう言うと、ノワードは「やる気は、あるようです」と言った。
「…しかし、金がいくらあっても足りません。旦那様は困り果てています。…治療費以外に、今は金を出さないおつもりかもしれません」
そんな…
「…強盗…ねえ……」
隣でルトが意味あり気にそう呟いたとき、私達のいる広間の奥の扉がバンと開いた。