月夜の翡翠と貴方【番外集】


「…お父様!待って下さい、これ以上被害が出たら、もう…!」


出て来たのは、厳しそうな顔つきをした男と、セルシアだった。

どうやら、彼が領主…セルシアの父親のようだ。

領主は、つかつかとこちらへ歩いてくる。

その後ろから、必死に人を雇おうと説得してくる娘を、彼は眉を寄せてあしらっていた。

「駄目だ、そんな金はない。そうでなくとも、治療に莫大な金がかかっているのに」

領主つきの執事が申し訳なさそうに、涙ぐむセルシアをなだめている。

「セルシア様、旦那様はこれから御用があって外出されます。お話は、また旦那様が帰宅されてから…」

「そんな場合じゃないでしょう!?今晩また被害が出るかもしれないのよ!」

領主とセルシアが横を通り過ぎて行くのを、私達は何も言えずに見つめていた。

…ノワードでさえ苦い顔をして押し黙っているのだから、私とルトに何かを言えるはずがない。

領主の男は、とても厳格なひとのようだ。


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