月夜の翡翠と貴方【番外集】


セルシアの訴えを無視して、彼は執事とともに広間を出ようとする。

「…でもっ…」

「セルシア」

彼女の必死な声を、その強い声色で黙らせたのは領主だった。


「…私に何かを求めるよりも、まず自分のやるべき事を考えなさい」


彼はセルシアに背を向けて、冷たくそう言い放った。

何も言えないでいるセルシアに、領主は続ける。


「…お前が待ってくれというから、結婚も保留にしているが…最近、親交のある家の方々から、不安の声が上がっている」

「…え……?」


…親交のある家…

オリザーヌの親戚にあたる貴族家…だろうか。

「やっとモンチェーンの子息との繋がりができようとしていたのに、それをお前が拒んだ。それどころか、この家の金は益々減っていく」

領主は、ぐ、と拳を握りしめた。


「今までは金に関して協力してくれていた家も、今は拒否するようになった。何故か、わかるか?」


セルシアの目が、見開かれる。

…今までに、他の家がオリザーヌにも金を貸していたのは、やがてセルシアがロディーと結婚するだろうと見込んでいたからだ。

しかし、セルシアはそれを待ってくれと言い出した。

さらに、オリザーヌの金はどんどん減っていって。

今、オリザーヌへの信頼はないに等しいのだ。


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