月夜の翡翠と貴方【番外集】
「この数ヶ月、村のためだとお前の好きにさせていたが。そろそろ、それも限界だ」
ノワードが、苦しげに目を伏せる。
……つまり、それは。
「…セルシア。お前の結婚を早める。二週間後だ。あちらの家には、もう話してある」
セルシアの瞳が、これ以上ないほどに見開かれた。
「…そん、な」
「嫌とは言わせない。わかるな?これも村のためだ。絶対、破談にだけはしないように」
そう言うと、領主は広間を出て行った。
しんと、空間に静けさが満ちる。
セルシアは、呆然と立ち尽くしていた。
「……二週間後……」
…それにしても、やはり、急だ。
最も、領主は近いうちにこうすることは決めていたのだろうが。
…仕方、ないのだ。
そもそも、結婚を待つこと自体、奇跡とも言える。
村人への治療を最優先にした娘への、領主なりの優しさだったのだろう。