月夜の翡翠と貴方【番外集】
…よくわからないのだが。
私の隣でセルシアの様子を見つめるノワードは、なんだか不安気だ。
「そ、その…ロディー様は、とても優しく接して下さるのです。でも、私は…わ、私がちゃんと出来なくてっ…!」
ルトの頭の上に、益々疑問符が浮かぶ。
…セルシアが、ちゃんと出来ない。
「…なにが?」
「……っ、だ、だだ、男女の、あれこれですっ……!」
ルトが堪らず、吹き出した。
勇気を出して言ったのに笑われて、セルシアは涙目になっている。
…男女の、あれこれ。
ノワードは目を細めて、「ああ、お嬢様…」と、嘆いていた。
令嬢つきの執事としては、その辺り複雑な心境なのだろうか。
…それは、まあ、いいとしても。
涙まで浮かべながら笑うルトに、セルシアはとても恥ずかしそうで。
「…ぶ…っ、な、なに?キスとか?それ以上とか?迫られて拒んじゃうってこと?…ぶはっ」
「わ、笑わないで下さい…!だって、ろっ、ロディー様、すごく自然に近づいてくるんですもの…!」
「あはは、純情。可愛いなぁ…どっかの誰かさんと違って」
ちらりとこちらを見てきた彼を、容赦無く睨んでやった。