月夜の翡翠と貴方【番外集】
すると、未だ涙をこぼしながら、セルシアが「しかも、こんなときに強盗だなんて」と震えた声を出した。
「私、そちらのほうが心配でなりませんの。でも、ロディー様ともお会いしなければならないし…ああ、どうしたら」
その言葉に、私はもう一度ルトを見る。
案の定、彼はこちらを見てニヤッと笑っていた。
…言わなくても、同じ気持ちだったようだ。
ルトは、涙目をこするセルシアへ向き直った。
「なぁ、セルシア様」
*
その日の夜、私達はディアフィーネの森のなかにいた。
「……相変わらず、出口が見えねえ森だな……」
うんざりした顔で、ルトが呟く。
この森は、以前散々迷った覚えがある。
途中でレグート達に見つかり、私とルトは崖っぷちに追い詰められた挙句、その下の川へ飛び込んだのだ。
しかし今回は、向かう方角が違う。
目指しているのは、以前立ち寄った関所の方角ではない。
隣町モンチェーン、だ。