月夜の翡翠と貴方【番外集】
彼も、このままではオリザーヌでのセルシアの立場が危ういと思っていたのだろう。
セルシアより深々と頭を下げて『よろしくお願いします』と言ってきた。
そうして私達は、早々に邸を出たのである。
この森で迷うことを考慮して。
…結局、その通りになったわけだが。
「…ルト、もうそろそろ、動くと危ない」
地図を見ながら歩くルトに、はらはらする。
もう、頭上には月がのぼる頃だ。
足元が見えなくて、そろりそろりと歩く。
「ん〜、でもなぁ、明日の昼には向こうに着いておきたいんだよなぁ」
その気持ちも、充分わかるのだが…
「で、でも………わっ」
「!」
地図のガサガサという音と同時に、ルトがつまずいた私を支えた。
どうやら、木の根に足を引っ掛けたらしい。
「…あ、ありがと…」
「…いや、ごめん。やっぱり、これ以上はやめよう」
…ルトは、暗闇にある程度慣れているのかもしれないけれど。
私はまだ、夜目が利かない。
彼は申し訳なさそうな顔をすると、辺りを見回した。