月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…テントを張れそうな場所はないな…」
どこを見ても、樹木と暗闇があるだけだ。
テントを張るのにちょうど良い空間は、周りには見当たらない。
ルトは近くの太い樹木の幹にもたれかかると、そのままその場に座った。
そして、無言で手を広げ、私を見てくる。
「ん」
…来い、ということなのだろう。
私は同じように無言で歩み寄ると、腕を広げる彼のそばで膝をついた。
すると包むように、私の腰にルトの腕がまわった。
「………ねえ」
こてんと彼の胸に頭を預ける。
頭上の木々の隙間から、月の光が漏れている。
声をかけて見上げると、ルトは目をつむって「ん?」と返事をした。
「……こういう、暗くて辺りが何も見えないとき、どう戦えばいいの?」
私のした質問に、ルトが小さく目を開く。
……先程まで、何も見えなくてとても不安だった。
何度もつまずきそうになって。
そのとき、思ったのだ。
きっとディアフィーネの村に灯りがついても、強盗は闇を上手く利用して動くだろう。
灯りのないところを選ぶはずだ。
そういうとき、確実にあちらのほうが暗闇に目が慣れているから、戦闘になったとき私は不利なのだ。