月夜の翡翠と貴方【番外集】
ルトは上を見るようにして「そーだなぁ…」と言うと、再び目をつぶった。
「…音、かな」
彼がそう言った途端、辺りの静けさがより一層強くなった気がした。
私も同じように、目をつぶる。
色んな音が、聞こえてきた。
「…集中して。目が使えないなら、耳を使え。相手の足音を聞き逃すな」
草が、風に揺れる。
それに合わせて、草と草が擦れる。
地面に落ちている小さな石が、転がる。
私の後ろで、虫が微かに鳴いた。
「……わかった。意識、してみる」
目を開けて見上げると、ルトはにっこりと笑って「うん」と言った。
「でも、無茶はするなよ?まずいと思ったら俺のとこに来るか、叫べ」
すぐ行くから、と私のご主人様は言ってくれるけれど。
…いつまでも、頼っては駄目。
しっかりと役に立てるよう、戦力になるようにしなければ。
今回は仕事ではないけれど、私にとってはほぼ本番に近い練習だ。
ミューザでミラゼにナイフの扱いや動き方などを教わって。
その後、私はナイフの他に鍛冶屋で短剣を買った。
女にも扱いやすい、細く軽い造りをしているものだ。
これを上手く使いこなせるように、練習しなければならない。