月夜の翡翠と貴方【番外集】
協力、強盗退治、彼と私を信じて
「単刀直入に言います。セルシア様と会ってください」
バン、と、ルトが黒塗りの上等な机を叩いて、そう言った。
彼の視線の先にいるのは、机に肘をついて不機嫌を露わにする、ロディー。
彼は黒い瞳を面倒そうに上へ向けると、小さく口を開いた。
「嫌だ」
……相変わらずの簡潔な答えに、隣でルトが眉を引きつらせた。
ここは、コンラート家の邸の一部屋である。
そこで私とルトは、この家の長男で跡継ぎであるロディー・コンラートと、話をしているのだが。
正午にこの邸を訪れたはずなのに、もう外は暗くなり始めていた。
いちばんの理由としては、ロディーの執務が滞っているとかで、数時間別部屋に待たされてしまったことだ。
しかし、やっとロディーの私室に通され話が出来ると思えば、彼は私達の顔を見るなり不機嫌になってしまって。
理由は、簡単だ。
『セルシアのことを、思い出してしまうから』。
「…ったく…拗ねてる場合かよ。結婚が早まったんですよ?それも二週間後。今すぐにでも会いに行かないと」
ロディーのあまりに素っ気ない態度に気を悪くしたのか、ルトは苛々している。
…まあ、仕方がないだろう。
私達がこの部屋へ入ったときにはもう、ロディーは既に機嫌を損ねていた。