月夜の翡翠と貴方【番外集】
そして私達の顔を見るなり、『なにか用か』とぶっきらぼうに言い放ったのだ。
昨日はこの町に着いたあと、疲れていたのでそのまま宿をとった。
だから疲れはとれているし、今日はこの邸へ来るまでの間、華やかなモンチェーンの町並みを眺めながら来たから、ルトの機嫌はとてもよかったのだが。
連絡なしの訪問だったから待たされたのは仕方ないにしても、ロディーのこの随分な態度はなんだろう。
「セルシア様は、ロディー様と会う決意をされたんです。ここは変な意地捨てて、もう一度会いに行きましょう」
ルトが負けじと説得を試みるが、ロディーはつんとしてそっぽを向いたまま。
…つくづく、困った性格をしている男だ。
外面は完璧な紳士のくせに、器用なのか不器用なのか。
ルトはしばらく納得のいかない顔で見つめていたが、全く変わらないロディーの表情に、ついに口を開いた。
「セルシア様のこと、好きじゃないんですか!」
ロディーの眉が、ぴくりと動く。
彼は、じとっとした目をルトへ向けた。
「……好きに決まっているだろう」
「だったら会いに行って下さいよー!」
苛立たしげに声を荒げるルトが少し面白くて、笑ってしまいそうになる…というのは、頑張って誤魔化しておくとして。