月夜の翡翠と貴方【番外集】


ルトが「セルシア様も悩んでますよ」とか「ふたりで頑張るんじゃないんですか」とか言う度に、ロディーの表情が変わっていくのがわかった。

……いくらルトでも、上級貴族に対してあまり言いすぎるのは…

ルト、と声をかけようとしたとき、ロディーが突然ガタンと椅子から立ち上がった。

ルトとふたり、びくりと肩が跳ねる。

ロディーはまるで恨みのこもった、腹の底から絞り出すような声を出した。


「……お前に、何がわかるんだ…」


サー…と血の気が引く。

どうやら遅かったらしい。

上級貴族の子息を怒らせたとあれば、大変なことだ。

もしも、恐ろしい処罰を下されてしまったら…

さてどのようにして回避しようかと懸命に考えを巡らせていたが、ロディーの口が次に発したのは処罰の言葉ではなかった。


「愛する女がそばにいて…いつでも触れられる。満たされたお前に、何がわかるんだ!」


えっ。

今度は、ぽかんと口を開けてしまう。

ロディーの瞳には、怒り…それも、明らかに嫉妬によるものがにじんでいた。


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