月夜の翡翠と貴方【番外集】
「わかります…!俺も手を出せない時期が長く続いて、何度悩んだことか…!」
…そんなこと、初めて聞いたのだけれど。
手を出せなかったというのは、つまり私が依頼品だったからだろう。
最も、私ははじめから、ルトが望むのであれば何でもする、と言っていたのだが。
…彼も私と同じように、私との関係で悩んだりしたのだろうか。
ロディーが怒りを通り越して冷めた目でこちらを見てきたので、とりあえず目をそらしておいた。
最早冷め切った瞳で視線を送られているルトは、それでもなお「だからって拗ねちゃ駄目ですよ」と机をまたバンと叩いた。
なんなんだ、この男。
「結婚ですよ?早いとこセルシア様と仲直りして、めげずに口説きましょう!」
ルトの熱弁に、ロディーは目を伏せたあと、ひとつため息をついた。
そして、机の上に置かれたインク瓶を見つめて、口を開いた。
「……確かにな、急がなきゃならん。以前までの俺は、セルシアを手に入れるのは結婚するのが最も手っ取り早いと思っていた」
…欲しいからだ、と彼は言っていた。
早く、セルシアが欲しい。
その一心で、前回ロディーは久々の再会であるにも関わらず、セルシアにキスをした。