月夜の翡翠と貴方【番外集】


外面は紳士的で、女の扱いも長けていそうなものを。

本当に好きな女には、愛の言葉のひとつも上手く言えない不器用な男だ。

結婚という鎖に頼ってしまった結果、セルシアの心はあと一歩のところで手に入らなかった。

お互いのことを考え、もう一度はじめからやり直そうと決意したふたりは、婚約者同士としては充分だと思うけれど。

ロディーは静かに目を閉じて、「だがな」と言った。


「……彼女が結婚を保留にすると言ってから、俺も考えた。…結婚だとか立場だとか、そんなもの関係なく、セルシアの心が欲しいと」


その言葉を聞いて、私は思わずルトを見た。

ルトは私の視線に気づくと、歯を見せてはにかんだ。

…ロディー様。

それはきっと、恋ですよ、と。


「結婚だからと急がず、セルシアと純粋な関係を築きたい。…愛し、合いたい」


そう言ったロディーの顔は、真っ赤だった。

…本当に、簡単なことなのだ。

ロディーは、セルシアを愛している。

恋を、している。

婚約者である前に、セルシアをひとりの女として。


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