月夜の翡翠と貴方【番外集】
その剣が勢い良く振り下ろされるのを視界の端に捉えて、私は静かに目を閉じる。
ー…その瞬間、目の前を風が切った。
…ああ、ほら。
獣だ。
「がはっ…!」
呻き声とと共に男は床へ倒れこみ、剣はカシャンと音を立てて落ちた。
私は少しずつ目を開き、目の前に立つ背中と、その後ろの光景を見つめた。
立て続けに女が、正面から腹を蹴られ、後ろへ飛ぶ。
『彼』は、その体をしなやかに動かす。
「…よっ、と」
男の剣をさらりと避けると、床に手をついて、逆立ちの態勢のまま足で男の手元を蹴った。
今度は部屋の隅に、剣が派手な音を立てて飛んでいく。
武器を失った男はなす術もなく、そのままもう一度強く腹を蹴られ、倒れた。
…さすが。
こんなこと、私にはできない。
ナイフを持った女が、横から私を狙って走ってくる。
しかし彼はすぐにそれに気づくと、私と女の間にサッと剣を挟むように向けた。
「…それ以上近づいたら、斬るよ」
暗くて鋭い、深緑。
私を守る、獣。
愛しい愛しい、私の唯一無二のひと。