月夜の翡翠と貴方【番外集】


女が怯んだのを見て、彼は剣を持ったまま女の方へ走り出した。

ひっ、と小さく怯えた声を上げて、女がびくりと肩を揺らす。

彼はそのまま剣を使わずに、女の腹を殴った。

「…っ…!」

女が倒れこんだとき、まだ無傷の男が、私に向かって走り出してくる。

私は思わず短剣を構えたが、それより先に『彼』が飛んだ。


「…お前にばっか、戦わせらんねーよ」


そんな言葉と共に、上から男の首を蹴る。

…今更、格好つけなくても。

私は貴方の指示に従って、ただただ逃げていただけ。

貴方がきっと来てくれると信じていたから、出来たことだ。

…貴方がいなきゃ、私は何も出来ない、ただの奴隷。


けれど貴方がいたから、こうして強く立っていられるのだ。


彼は私の前にすとんと降り立つと、倒れたままこちらを憎々しげに見つめてくる彼らを、静かに見据えた。


「…悪あがきも、この辺にしとけ。今度は剣を使う。死にたくなかったら、大人しく観念しろ」


冷たい声色が、部屋のなかに凛と響く。

強盗達は唇を噛み締めて、彼を見上げた。


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