月夜の翡翠と貴方【番外集】


すると、ルトが目の前で右手を上げてくる。

なんだろうかと思ったが、ルトが無言で笑ってくるので、ああ、と思い出した。

パン、と音を立てて、自分の手をルトの手に重ねる。


「…当たり。初の実戦、お疲れ様」


歯を見せて笑う彼に、嬉しさが込み上げた。

「…あ、ありがとう。ルトも、お疲れ様…」

「ん」

思わず顔が赤くなって、下を向く。

しかし、彼は私の顔を見て、ふ、と笑うと、すっと顔を近づけてきた。

えっ…


「ご褒美」


ちゅ、と音を立てて、頬にキスされる。

セルシアが後ろで、「きゃあっ」と声を上げた。

「な、なにっ…」

「あれ、嫌?」

本当はわかっているくせに、そんなことを訊いてくる。

…嫌、というか。

この前も、ロディーの前で抱きしめてきたりと、この男は場所を選ばなすぎると思うのだ。

セルシアを見ると、顔を真っ赤にして「ま、まあ、恋人同士ですものね、仲が良いのはいいことよね」と何やら呟いている。

それを見て、ルトは穏やかに笑っていた。


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