月夜の翡翠と貴方【番外集】
桃色、誇り、『ありがとう』
「…え……ロディー…様…?」
セルシアが困惑した表情で見つめる先にいるのは、もう少し後に来るはずのロディー。
彼は息を整えると、黙ってセルシアを見ている。
必然的に落ちる沈黙をみかねたノワードが、声をかけた。
「…随分と、お早いご到着ですね。なにか…あったのですか」
しかし、それにしては彼の近くに執事らしき人物も見当たらない。
皆が眉を寄せるなか、ロディーは何故か、はずかしそうに目をそらした。
「…大したことでは、ない。ただ……」
ロディーはさらに顔を赤くさせて、「はっ、」と言う。
『は』?
沸騰しそうなほど真っ赤になったロディーに、益々困惑する。
やがて彼は勇気を出したようにパッと顔を上げると、セルシアを見つめた。
「はっ…は、早く、…セルシアに会いたいと、思っただけだ」
カシャン…
セルシアが、持っていた櫛を床に落とした。