月夜の翡翠と貴方【番外集】
皆が、目を見開く。
……え?
今、なんて。
「…ロ、ディー…さま…」
顔を赤く染めて、セルシアがロディーを見つめている。
その視線に耐えられなくなったのか、彼はぱっと顔を下へ向けた。
そして、低い声で「…ノワード」と呼んだ。
「は、はい」
「…俺を、部屋へ案内してくれ」
「…かしこまりました…」
戸惑いながらも返事をしたノワードは、立ち上がるとロディーと共に部屋を出ていった。
嵐の去った後のように、空間に沈黙が降りる。
セルシアは、ずっと扉の方を見つめていた。
…あの、ロディーが。
口下手な、あのロディーが。
あんな台詞を、言うなんて。
「……俺のおかげじゃね?」
隣でルトが、ひきつった笑みを見せている。
…コンラート家を訪問した際に、『誠実な言葉が大事』と、ルトが熱弁したせいなのか…は、定かではないものの。
猫を被ったあの紳士が、変わろうとしている。
それは、ロディーがセルシアへ本気で恋に落ちている、証拠のようだった。
*
…とは、思ったものの。