月夜の翡翠と貴方【番外集】
…確かに、どれもセルシアに似合っていたけれど。
しばらく悩んだ末、決まらなかったのか、彼女はちらりとロディーを見た。
椅子に腰掛けてずっとセルシアの様子を見ていたロディーは、その視線に気づくと眉を寄せる。
目があったのか、セルシアはびくりとしてまた前を向いた。
「…………なんだ」
低い声で発せられたロディーの声に、セルシアはまたびくりとする。
そしてほのかに頬を赤くしながら、ロディーのほうを向いた。
「…ろ、ロディー様は…どのドレスが良いと、思いますか?」
恥ずかしそうなその表情が、可愛らしい。
…セルシアも、歩み寄ろうとしてるのだと、思った。
昨日のロディーのあの言葉は、セルシアにちゃんと伝わっているのだ。
ロディーは少しの間考えたあと、小さく口を開いた。
「…どれでも良いと、思うが」
簡潔なその答えに、セルシアは一瞬悲しそうな顔をしたあと、苦笑いを浮かべた。
「そ…そう…ですわよね」
ちらりと隣にいるルトを見ると、何故だか悔しそうな顔をしている。
彼の心のなかでは、『なんでそんな言葉しか返せないんだよ』とでも文句を言っているに違いない。
しかし、ロディーがセルシアの表情に気づいた。
『このままではいけない』と思ったのか、こちらもまた困惑の表情をしている。
空間に、沈黙が流れた。
…ちょっと、見ていて面白い。
思わず笑いそうになってしまうのを、必死に抑える。