月夜の翡翠と貴方【番外集】
「ジェイドさんのドレスを取りに行ってきます。ちょっと待っていて」
嬉しそうにそう言うセルシアに、召使いは「はい」と快く返事をした。
背中を押されるまま、部屋を出る。
うきうきとして私の手を引き、セルシアは廊下を歩き始めてしまった。
「あ、あの、セルシア…」
「ジェイドさん、髪型はどうしましょう?私また、させていただいても?」
「そ、それは構わないけど…」
本当に私なんかが、ドレスを着ても良いのだろうか。
彼女に連れられ廊下を歩いていると、途中の部屋の扉から、ルトが出てきた。
「えっ……」
「げっ」
その後ろから、ノワードも出てくる。
私を見て恥ずかしそうに目を逸らすルトの姿に、私は目を見張った。
……正装姿。
大きな金ボタンのついた、黒の長いジャケットを、彼は気怠そうに着ている。
それでも、いつも身軽な格好をしている彼にしては、とても上品な装いで。
シャツの襟で締められた首元を、窮屈そうに緩めるその姿を、私はしばらく凝視していた。