月夜の翡翠と貴方【番外集】
…ここで嘘をついても、意味はないだろう。
レンウは意地でも、『私』のことを知りたいらしい。
店で問われたとき、もうないだろうと思っていたというのに。
「…いえ。特には」
少し俯いて返事をすると、レンウの足が、一歩こちらへ進んだ。
「…なにも、ないのかい?」
その声色は、まるで『信じられない』という思いを含んでいて、私は顔をあげることができない。
今、レンウの顔を見ることができない。
「別に、謙遜などしなくていいんだ。なにかできることがあるのか、と訊いているだけだよ」
急かすような口調に、どくどくと心臓が嫌な音を立てはじめた。
黙って肯定の意を伝えると、レンウが言葉を失ったように黙る。
「…………」
起きてこなければよかった、と激しく後悔するが、今更だ。