月夜の翡翠と貴方【番外集】
目の前のテーブルに置かれているのは、豪華な夕食たち。
椅子に座る気にすらならない。
召使いの言葉を無視して、わたしは座り込んだまま窓の外を眺めた。
見えるのは、暗闇のなかにぽつぽつと明かりの灯った街の姿。
優しい優しい、静かな夜。
けれどわたしは、その夜に溶け込むことができない。
照明のついた豪華な部屋に閉じ込められて、外の様子を確認できるのは、部屋にひとつだけある小さな窓だけ。
「…ですが、旦那様のお言いつけです。少しでも食べて下さい。私が怒られますわ」
……そうね、あなたが困るものね。
わたしは、ちらりと召使いの女に目をやる。
この家の召使いの中で、恐らくいちばんわたしを『人間』として扱ってくれる人だ。
だから、わたしもこの人が部屋へ来たときだけ、言葉を発する。
……他の者が来ても、何も話さない。
話す気に、ならない。