月夜の翡翠と貴方【番外集】
「………食べたくない。あなたが食べたら」
「そ、そんな…マリア様、ここにいらしてから一度も食事をされていないじゃないですか」
だって、食べる気にならないんだもの。
この家に連れてこられて、もう四日が経つ。
最初の二日間は、寝台の上で寝ることも出来ずに泣いていた。
やがて泣き疲れて、寝た。
そして働かない頭を抱えて寝台から下り、窓の外を見て過ごしている。
…『彼』は、来ない。
まだ一度も、この家にわたしを連れて来た日から、会っていない。
…会いたくないから、いい。
会ったらきっと、泣いてしまう。
「……ごめんなさい、食べられないから。もう戻って」
そう言うと、女は眉を下げた。
そして食事をテーブルに置いたまま、部屋を出て行く。
…置いていても、食べないのに。
テーブルに置かれた皿を見て、また窓の外へ視線を移した。
…もう、考えるのが嫌だと思った。
リズパナリの家のことを、考えるのが嫌だと。
何故こうなってしまったのか、何故気づけなかったのか、問いても問いても答えは出ない。
…子供のわたしに、政治のことはわからない。
親も兄も、それでいいと言った。
だから、その通りにしていたのに。