月夜の翡翠と貴方【番外集】
気づいたときには、もう手遅れ。
後悔なんてもう、意味も成さない。
父親はわたしを、命と引き換えにこの家へ売った。
裏切られた悲しみと怒りと共に、これは罰なのだと納得する自分もいる。
家のために何もしてこなかった、これはわたしへの罰なのだと。
…だから、もう考えない。
涙を流して、悲しみに暮れるその権利さえ、わたしにはないように思える。
何より、疲れてしまった。
もう、何も考えたくない。
これ以上は、壊れてしまう。
じわりと浮かんできた涙を拭って、窓の外を眺める。
…外を見ていると、落ち着く。
この豪邸は、ターヅという大きな街に建てられていた。
窓の外から見えるのは、色んな姿をした人々。
心が落ち着けるのは、外の世界だけだ…と思った、そのとき。
「マリア」
部屋の扉の向こうから、あの人の声がした。
ビクリと肩が跳ねる。
同時に、震え始める。
コンコンというノックのあと、扉が開けられ、『彼』が見えた。