月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…ナ、タナ、様…」
寝台の前に来ると、やはり何も言わずに見下ろしてくる。
そのとき、また怖いと思った。
あの冬の日、わたしからすべてを奪っていった、恐ろしい彼だったから。
「……ナタナ、様」
次第に、肩が震え始める。
滅多に呼ばない、彼の名前。
呼んだら彼は、優しく振り向いてくれる。
なのに。
目を見開くわたしに振り下ろされたのは、碧の髪を撫でるための手のひらではなく、殴るための拳だった。
「……っ、あ」
痛い。
頬を殴られ、口の中が切れる。
痛い、痛い。
「…ナ、タナ…様」
何を、と口を挟む隙さえも、与えてはもらえなかった。
今度は容赦無く腹を殴られる。
痛い、痛い…!
顔から身体、至る所に傷や痣をつけられていく。
あまりの痛みに、涙が浮かんだ。
彼とわたしの息遣いだけが響く空間のなかで、わたしは彼を見た。