月夜の翡翠と貴方【番外集】
…怒りにまみれた、瞳だった。
仕事で、何かあったのかもしれない。
苛々しているのかもしれない。
だから、奴隷のわたしを使って発散している。
殴られる痛みから意識をそらすように、そう思った。
気が済んだのか、しばらくして彼が殴るのをやめた。
寝台に力なく横たわりながら、荒い息を整える。
服を乱暴に引きちぎられ、生々しい傷のついたわたしを、彼は我に返ったように見つめた。
「……ああ、マリア。すまない、マリア……」
痛みに涙を浮かべるわたしを、彼はそっと抱き寄せた。
殴られた身体が、顔が、痛い。
言葉を発する気にもなれない。
ただただ、耳元で聞こえる彼の声を聞いていた。
「すまない、マリア。痛かっただろう。ごめんね、マリア…」
……歪んだ人だと、思った。
不安定で、狂った人だと。
今まで容赦無く痛みを刻み込んできたくせに、抱きしめる腕は優しい。
ひたすらに『すまない』と繰り返して、一晩中わたしを抱きしめる彼を、ただ見つめていた。