月夜の翡翠と貴方【番外集】
それから、彼はまた今まで通りに穏やかな顔をして、わたしの部屋を訪れた。
…けれど、今までとは違っていたのは、あの夜のように荒々しくわたしを傷つける日が、時折やってきたということ。
痛みに涙を流せば、彼は苦しげに謝罪の言葉を繰り返す。
痣があまり残らなかったのは、風呂に入ったとき、あの召使いの女が気の毒そうな顔をして、手当をしてくれていたから。
…抵抗する気には、ならなかった。
わたしが知る奴隷という存在は、本来こんな風に、理不尽に扱われる存在なのだ。
だから、なんら可笑しなことではない。
そう思いながら、わたしはこの家で一年を過ごした。
この、痛みと甘さの絡む歪んだ日々に、慣れてきた頃。
彼は、いつものようにわたしの部屋へ来て、言った。
「一日、暇ができた。今日はマリアと遊ぼう」
そう言って、普段以上にニコニコと笑う。
本を読んでいたわたしは、またこの人は可笑しなことを言い出したな、と思った。
「…わたしなんかと遊んで、ナタナ様は楽しいの?」
この前、十三歳になったわたしを、ナタナは盛大に祝ってくれた。
甘いデザートを用意して、彼はあの召使いとふたり、『おめでとう』と言って部屋へ入ってきたのだ。