月夜の翡翠と貴方【番外集】
その恐ろしい道具に、思わず後ずさる。
それを許さない彼の手が、わたしの肩を掴んだ。
「…っ、」
「私のものだという証だよ。迷子になっては困るだろう?」
……やはり彼は、わたしをペットか何かだと思っているらしい。
強い力で掴まれた肩が、痛い。
抵抗する気は失せ、わたしは自分の首に輪がつけられるのを、黙って見ていた。
じゃら、とした鎖が、服のなかに入れ込まれる。
鉄が肌に触れて、冷たい。
ため息をつきそうになるわたしの顔を見て、ナタナは楽しそうに笑った。
「行こうか、マリア」
そして彼は、扉を開けた。
*
フレドラ家の邸を出て、わたしは見えた景色に瞳を輝かせた。
「…どうだ、久々の外の空気は」
「すごく、賑やか」
わたしの手を引くナタナは、喜ぶわたしの顔を見て微笑む。
目の前には、人の大群。
毎日窓から眺めている人々が、今目の前にいるのだ。
部屋の照明とは違う、太陽の光に目を細める。
一年ぶりの外の世界に、わたしは涙すら出そうだった。