月夜の翡翠と貴方【番外集】



その恐ろしい道具に、思わず後ずさる。

それを許さない彼の手が、わたしの肩を掴んだ。

「…っ、」

「私のものだという証だよ。迷子になっては困るだろう?」

……やはり彼は、わたしをペットか何かだと思っているらしい。

強い力で掴まれた肩が、痛い。

抵抗する気は失せ、わたしは自分の首に輪がつけられるのを、黙って見ていた。

じゃら、とした鎖が、服のなかに入れ込まれる。

鉄が肌に触れて、冷たい。


ため息をつきそうになるわたしの顔を見て、ナタナは楽しそうに笑った。


「行こうか、マリア」


そして彼は、扉を開けた。





フレドラ家の邸を出て、わたしは見えた景色に瞳を輝かせた。


「…どうだ、久々の外の空気は」

「すごく、賑やか」

わたしの手を引くナタナは、喜ぶわたしの顔を見て微笑む。

目の前には、人の大群。

毎日窓から眺めている人々が、今目の前にいるのだ。

部屋の照明とは違う、太陽の光に目を細める。

一年ぶりの外の世界に、わたしは涙すら出そうだった。


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