月夜の翡翠と貴方【番外集】
「…そうか」
そう、小さく呟くように言う。
彼を見上げると、何故かほんの少しだけ、悲しげに見えた。
*
休憩しようか、と言って、彼と近くにあったベンチに座った。
被っていたシルクハットをとって、ナタナは小さく息をつく。
わたしは、ぼうっと街並みを見つめていた。
「……なぁ、マリア。私は、冷たい人間だろうか」
突然の言葉にハッとして、横を見る。
彼は目を細めて、道ゆく人々を眺めていた。
「……皆、言うんだ。私を、冷たい人間だと。そんなつもりは、全くないのだけどね」
……だって、冷たいもの。
その、美しい瞳が。
透き通った、まるで人間らしさを失ったようなその瞳が。
冷たいから。
目を合わせていると、不安になる。
本当に『彼』が自分と目を合わせているのか、不安になるのだ。
「……そうね。ナタナ様は、冷たいわ」
「ハハ、マリアから見ても、そうなのかい?では、よっぽどだな」
…彼が何故、突然こんなことを言うのかわからない。
わたしがまだ子供だから、少しくらい本音をこぼしても、構わないと思っているのかもしれない。
……いや、これが本音なのかも、わからないのか。
彼と共に一年間を過ごしても、まだわたしは彼の本音さえも、見抜くことができないでいた。