月夜の翡翠と貴方【番外集】


「…そうか」

そう、小さく呟くように言う。

彼を見上げると、何故かほんの少しだけ、悲しげに見えた。






休憩しようか、と言って、彼と近くにあったベンチに座った。

被っていたシルクハットをとって、ナタナは小さく息をつく。

わたしは、ぼうっと街並みを見つめていた。


「……なぁ、マリア。私は、冷たい人間だろうか」


突然の言葉にハッとして、横を見る。

彼は目を細めて、道ゆく人々を眺めていた。

「……皆、言うんだ。私を、冷たい人間だと。そんなつもりは、全くないのだけどね」

……だって、冷たいもの。

その、美しい瞳が。

透き通った、まるで人間らしさを失ったようなその瞳が。

冷たいから。

目を合わせていると、不安になる。

本当に『彼』が自分と目を合わせているのか、不安になるのだ。

「……そうね。ナタナ様は、冷たいわ」

「ハハ、マリアから見ても、そうなのかい?では、よっぽどだな」

…彼が何故、突然こんなことを言うのかわからない。

わたしがまだ子供だから、少しくらい本音をこぼしても、構わないと思っているのかもしれない。

……いや、これが本音なのかも、わからないのか。

彼と共に一年間を過ごしても、まだわたしは彼の本音さえも、見抜くことができないでいた。


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